Last Modified: 7/05/03

第92回看護師国家試験・微生物関連問題・解説編

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AM2. 免疫学

免疫グロブリンとその特徴との組合せで正しいのはどれか。

1. IgG−−−−−胎盤を通過する
2. IgM−−−−−消化管免疫に働く。
3. IgA−−−−−分子量が最も大きい。
4. IgE−−−−−U型アレルギーに関与する。

(解説と解答)

免疫学は必ず1問出るようですね。その中で抗体に関する知識はとくに出題委員の先生が大好きなようです。

1.○ IgGは液性免疫の主体をなします。唯一胎盤を通過するという以外に,血清中でもっとも量が多いこと,2次応答で多量に産生されることなどが重要。

2.× IgMは抗原刺激後,IgGより先に産生され,持続が短いのが特徴です。よって急性感染症の診断に有用なことがある(急性A型肝炎などの場合),5量体で他のIgより分子量が約5倍大きい,胎盤を通過しない(よって新生児に検出されたら,その児自身が感染していることを証明できる)ことも重要。

3.× IgA といえば粘膜局所での感染防御。分泌液にも含まれ,母乳による新生児の受動免疫にも絡んでいます。

4.× IgE といえばI型アレルギー。あとマスト細胞やヒスタミン(化学伝達物質=ケミカル・メディエーター)とかの用語を覚える。U型は「細胞傷害反応」でしたね。

正解:1

AM45. 消毒薬

血液で汚染された床の消毒に適切なのはどれか。

1. 70% エタノール
2. 0.5% クロルヘキシジン
3. 0.5% 次亜塩素酸ナトリウム
4. 10% ポビドンヨード

(解説と解答)

消毒薬に関する問題も好きですね。血液汚染,といえば「次亜」できまり。但し金属腐食性があるので,摂子(ピンセット)やメスなどの血液汚染にはグルタラール(グルタルアルデヒド,ステリハイド(R)とかサイデックス(R)とか)という風に覚えましょう。エタノールは議論が分かれるところですが,血液中に混入したB型肝炎ウイルスには有効性が疑問視されています。(グルコン酸)クロルヘキシジン(ヒビテン(R))はウイルスに無効。ポビドンヨードはものが着色されるので一般的に環境には用いない。しっかし,濃度まで覚える必要があるのかな……。

正解:3

AM50. スタンダードプリコーション

スタンダードプリコーションの概念に基づいた対策はどれか。

1. 感染症でない患者の尿汚染シーツをビニール袋に密閉する。
2. 患者の疾病によって使用する包交車を区別する。
3. 手袋の再利用について使用目的ごとに規定する。
4. 創傷消毒薬の種類を病棟間で統一する。

(解説と解答)

「スタンダードプリコーション」とは標準感染予防策のことで,1996年,米国CDCが出した概念です。院内感染対策を「標準予防策」と「感染経路別予防策」の2本立てにしてやりましょう,という考え方です。スタンダードプリコーションで重要なことは「感染症の患者さんとそうでない患者さんを区別せず」「患者さん由来の体液はすべて感染性があるものとして取り扱う」という基本概念です(この考え方だけ考えると「ユニバーサル・プリコーション」という呼び方で1985年頃に既に提唱されていました)。それまでは,たとえばこの人は「B肝だから・梅毒だから」針刺し事故に気をつける,なんてことをしていたわけです。こんな考え方,あまり意味がない,つまり血液由来感染症の患者の多くは事前には分かっていない,ということで生まれてきた考え方です。

1.○ 感染症であってもなかっても,ということです。実際には血液汚染ならまだしも,尿汚染という程度で感染する疾患があるかどうかは微妙ですが……。

2.× B肝のヒトだけ別の包交車にしましょう,とかいうのがダメなんだってばあ。

3.× (感染防止を目的とした)手袋は再利用しません。そもそもそこが間違いだと思います。そりゃ,熱いものを持つ軍手とかは何度も使いますが,そんなことは聞いてないと思います。

4.× 消毒薬はその目的(対象物・汚染が疑われる病原体など)によって決めるもので,統一することはできません。

正解:1

AM84. HIV感染症

HIV感染が起こるのはどれか。

1. 母乳で育てる。
2. 鍋料理を一緒に食べる。
3. コンドームを用いて性交する。
4. 共同浴場で入浴する。

(解説と解答)

HIV 感染症も必ず(!)でます。感染経路は血液感染(スクリーニング不十分な血液製剤,針刺し事故等の医療行為に伴うもの,経静脈薬物の注射器の再利用など),性行為感染,そして垂直感染(母子感染)です。性行為感染はコンドームで予防できます。母子感染は経胎盤・産道・母乳のいずれもあるようです。いわゆる「カジュアルコンタクト(日常的な接触)」では感染しません。

1.○ 感染する可能性があります。人工乳なら大丈夫ですが,途上国では安全な水を確保するのが難しい。まったくの余談ですが,ATL(成人T細胞白血病)を起こす HTLV-1 というウイルスも母乳で感染しますが,こちらはフリーなウイルス粒子というより,感染リンパ球が感染源なので,一旦凍結して融解することでリンパ球などの細胞成分を破砕した母乳が感染予防に有効と言われています。

2.× カジュアルコンタクト,ですね。

3.× ただしコンドームを「正しく」使ったら,という前提付きです。

4.× カジュアルコンタクト,ですね。

正解:1

AM85.口腔ケア(マイクロアスピレーション)

自力で動けない患者の肺炎予防に適切なのはどれか。

1. 毎食後の歯みがき
2. 毎食後のタッピング
3. 抗菌薬の予防投与
4. 経管栄養

(解説と解答)

寝たきり者のいわゆる「誤嚥性肺炎」「嚥下性肺炎」といわれるものの多くは,実は口腔内細菌が吸入されて起こるもの(一種の内因性感染)である,ということが最近分かってきました。マイクロアスピレーションといいます。よって肺炎予防には口腔ケアが重要なのです。

正解:1

AM86.Compromised host

化学療法後,好中球数が400 /mm3の患者への指導で適切でないのはどれか。

1. 頻回の含嗽
2. 手洗いの励行
3. 歯間ブラシの使用
4. 排便後の肛門部洗浄

(解説と解答)

口腔ケアの重要性については前の問と同じ。手洗いや肛門洗浄(ウォシュレット)も分かります。問題は歯間ブラシの使用ですが,これは歯垢の沈着を防ぎ,虫歯・歯周病予防には有効であると思われますが,マイクロアスピレーションによる肺炎防止には有効性が乏しく,問のような易感染者には,逆に口腔内感染症の誘因になるように思うのですが……。みなさま,どう思われますか?

正解:3

AM119. 常在菌

幼児の常在菌はどれか。

1. 咽頭の大腸菌
2. 下気道のインフルエンザ菌
3. 膣のデーデルライン桿菌
4. 鼻腔の黄色ブドウ球菌

(解説と解答)

おもしろい問題ですね。問われているような常在菌の種類と場所だけでなく,宿主との関係についても整理しておいてください。有益,無害無益,日和見感染症の誘因となるので平素無害だがときに有害,てな感じです。

1.× 大腸菌はヒトや動物の腸管,とくに回盲部から大腸にかけての常在菌ですが,咽頭,皮膚などには通常いません。常在菌としての大腸菌は,新生児感染症(髄膜炎など),膀胱炎や胆のう炎などの異所性感染の原因として重要です。

2.× インフルエンザ菌は「上気道」の常在菌です。よってかぜなどのウイルス感染症の二次感染として,乳幼児に髄膜炎・中耳炎・肺炎などを来すことが重要です。

3.× 月経がある女性の場合,女性ホルモンの働きで膣上皮にグリコーゲンが蓄積し,これを分解して酸を産生する乳酸菌,いわゆるデーデルライン桿菌が常在し他の病原菌の定着を防ぐ,というのが理屈です。ですから「幼児」の場合,まだいないのですね。また閉経後の女性の,いわゆる老人性腟炎も同じ理屈によります。

4.○ 黄色ブドウ球菌は皮膚,鼻腔などの常在菌です。市中で分離される黄色ブドウ球菌の約半数が MRSA である昨今,その常在菌が MRSA である可能性も十分あるわけです。

正解:4

AM123.麻疹の臨床経過

コプリック斑を認めた2歳児が感染した時期はどれか。

1. 1〜4日前
2. 7〜10日前
3. 13〜16日前
4. 21〜24日前

(解説と解答)

教科書によりますと,麻疹の潜伏期は10〜11日間。コプリック斑がでるのは,3〜5日間続く「カタル期」の真ん中頃で,次の「発疹期」の2日ほど前。となりますと,11プラス2か3くらいで13・4日くらい。で,3が正解ですかねえ。えらい難しい問題だな。

正解:3

AM125.髄膜炎(髄膜刺激症状)

髄膜炎の7か月児でケルニッヒ徴候と考えられるのはどれか。

1. 大きな音に上肢を広げて驚く。
2. おむつ交換時に下肢を挙げると嫌がる。
3. 抱き上げると反り返る。
4. 寒冷刺激でけいれんを起こす。

(解説と解答)

これもおもしろい問題ですね。髄膜炎の症状として注意すべきは,頭痛,嘔吐,そして髄膜刺激症状の3つです。髄膜刺激症状としては,あおむけに寝てもらって頭を持ち上げると肩までいっしょに上がってくる,いわゆる「項部硬直」(うなじが硬くなる)と,「ケルニッヒ徴候」が重要です。子供やおとなでは,あおむけに寝てもらって片方の下肢を,膝を伸ばして股関節を中心にして持ち上げていきますと,90度まで上げないうちに痛がる,というのがこの徴候なのですが,乳児の場合ではどうなるでしょう,ということです。同じような姿勢をしている状況は……。

正解:2

AM129.STD(クラミジア感染症)

クラミジアによる性感染症に罹患した女性の治療で正しいのはどれか。

1. 抗菌薬を1〜2週内服する。
2. クラミジア抗原陰性のパートナーは治療を必要としない。
3. 治癒の確認をするための検査は内服終了時に行う。
4. 一度治癒すれば再感染しない。

(解説と解答)

難問です。おそらく日本性感染症学会が出しているガイドラインを見て問題を作ったんだと思いますが,たとえばクスリを飲む期間なんて,ホントに覚える必要があるのかな?

1.○〜△ たしかに現在クラミジア感染症に承認されている抗菌剤はすべて「クラミジア感染症には投与期間原則14日間を目安」と特記されています。とはいっても,米国CDCのガイドラインでは,たとえばアジスロマイシン(ジスロマック(R))なんかが載っていて(日本ではクラミジア感染症に適応がない),その場合1日4錠(250 mgの場合)を1回だけでよい,なんてことになっています。これでも約2週間有効血中濃度が保たれるからです。
クラミジアは特異な増殖環を持つ細菌で,細胞外にいるときは感染性はあるが代謝を行わない「基本小体 EB」ですが,細胞内(というか正確には「食胞の中」)では「網様体 RB」となってさかんに代謝し,2分裂で増殖します。しかし RB には感染性はありません。
細胞外の EB には抗菌剤が無効。すべての EB が一旦細胞に感染して,RB にならないと抗菌剤が効きません(増殖の1サイクルは約3日)。さらにその RB の居場所がヒト細胞内なので抗菌剤はヒト細胞の中に入らなければならない,なんてことをすべて考え合わせると,抗菌剤による治療において,ある程度有効濃度が持続する期間が必要である,という理屈は納得できます。しかし,そうはいっても,問題の出し方が………。

2.× STDの治療の基本はセックスパートナーとの同時治療によって「ピンポン感染」を防ぐ,ということです。

3.× 前述の日本性感染症学会のガイドラインでは「治療後3〜4週間後,クラミジアの病原体検査を行う」とあります。これには理由があって,通常行われる病原体検査は,抗原検出 EIA か核酸 DNA を検出する PCR や LCR なのですが,いずれの場合も治療直後の場合,たとえ治療が成功していても,いわゆる「死菌」といいますか,感染性のないタンパク質の断片や DNA の破片なんかを検出してしまい,偽陽性に出る場合があるのです。確実に感染性のある EB を検出しようとするなら「分離培養」ですね。私,さる検査センターのご協力でクラミジアの分離培養を教わったことがあります(恥ずかしながらフィリピンで指導するための「付け焼き刃」のため……)。とっても手間がかかりますが確実に感染性 EB を検出できます。だったらこの問題は「培養検査」まで考えると「○」か?となりますが,治療直後では飲んでいた抗菌剤がまだ残っていて試料中に混じることがあり,感染性 EB があっても混入する抗菌剤のためうまく培養できずに検出できないことが考えられます。つまり今度は偽陰性の可能性があり,やはり直後はまずいでしょう,という感じかな。しっかし,ここまで考えて×をつけたヒトが何人いるんでしょうか……。
そもそもクラミジアは耐性菌が事実上問題にならないので,前述の米国 CDC のガイドラインでは,確実に服薬できていて症状が消失したら治療効果確認のための検査は必要ない,と断言しています……。だったらいままでの解説はどうなるの??

4.× 確実に治療が成功すれば再発はありません。上述の如く耐性菌は事実上問題になっていません。しかし免疫は成立せず,再感染はあります。よってセックスパートナーとの同時治療が必要なのです。

むしろクラミジア感染症といえば,とくに女子で無症候者が多いこと,合併症(流早産,不妊,新生児感染症など)に留意することなどの方が大事なのになあ……。

正解:1

PM16-18.帯状疱疹

55歳の女性。保育所勤務。外来受診時に経過を聞くと「5日位前から右脇腹が火照るような感じがして市販の鎮痛消炎パップ剤を貼りましたが治りません。昨日からつねられるような痛みになって,昨夜は眠れませんでした。今朝見ると,右胸から脇の下を通って背中まで身体の右半周に赤い水疱があって,痒いけど触るだけでものすごく痛くて,何か分からなくなって怖くなって病院に来ました。このところ保育所の行事で疲れていて,忙しいときにこんなことになって……」と憔悴した様子で話す。診察の結果,入院した。

〔問題16〕

確認する既往歴はどれか。

1. 水痘
2. 麻疹
3. 風疹
4. 流行性耳下腺炎

(解説と解答)

痛みを伴う水疱が,右半身のみ,それも肋間神経の知覚神経領域に沿って存在しています。帯状疱疹(帯状ヘルペス)です。原因微生物はヘルペスウイルス科に含まれる水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)です。初感染は水痘ですが,その後ウイルスは脊髄後根神経節に潜伏感染し,何かのきっかけで回帰発症して知覚神経領域に一致した水疱を来します。これが帯状疱疹です。VZV には有効な抗ウイルス剤があります。アシクロビル(ゾビラックス(R)),あるいは Ara-A (ビダラビン:アラセナ-A軟膏(R))などです。その「何かのきっかけ」には問題のように仕事がきつい,とか,受験勉強(みなさまは国家試験 健康に気をつけてがんばってくださいね)とかもあるのですが,悪性腫瘍や HIV 感染症などの基礎疾患がある場合もあるので注意が必要です。また水疱ができているときにもヒリヒリ痛いのですが,「ヘルペス後神経痛」といって水疱が治癒したあとでも灼熱感や痛みのような「神経痛」が残ることがあります。早めに抗ウイルス治療を行うとその頻度は少なくなるといわれています。

選択肢2に関連して,麻疹が治癒したあと,スローウイルス感染症として発症するSSPE(亜急性硬化性全脳炎)についても見ておいてください。今回の問題とは関係ないです。

正解:1

〔問題17〕

治療薬の点滴静脈内注射と軟膏塗布および消炎鎮痛薬の内服が開始された。
本人への説明で適切なのはどれか。

1. 疲労は発症の誘因ではない。
2. 軟膏塗布前は石けんで清拭する。
3. 水疱は2週前後で痂皮となる。
4. 再発の可能性はない。

(解説と解答)

1.× 疲労も誘因のひとつなのは前述の如しです。

2.× 刺激はよくないと思います。そのまま軟膏を塗りましょう。

3.○ 水疱はしばらくすると痂皮を形成して治癒しますが,色素沈着を残すことがあります。

4.× ウイルスは排除されません。何度でも再発する可能性はあるのですが,あまり頻度が高かったり,あるいは複数の知覚神経領域で同時に発症したりした場合は,前述のように何らかの原因による免疫不全を疑うべきです。

正解:3

〔問題18〕

深夜,「薬を飲んだけれど痛みがとれない」と言う。1時間後に再度「痛くて我慢できない」と訴えてきた。

対応で適切なのはどれか。

1. 「もう少し様子をみましょう」
2. 「痛み止めについて医師と相談します」
3. 「痛みは一時的なのでもうすぐ治まります」
4. 「これ以上の痛み止めは体に良くないです」

(解説と解答)

患者さんは仕事の忙しいときに穴を空けたので焦っておられるようです。さらに昨日も痛みで寝ていないようですね。看護学は皆様の方が専門です。私にはよく分かりませんので,自分が同じシチュエーションで入院したときを想定して,どういわれたらどう思うかで答えてみます。

1.△〜× 私はクスリを飲んでから一度「痛みがとれない」とナースステーションに訴えに行ってます。そのときにおそらく,クスリを飲んだばかりだからあと1時間くらい様子を見たらどうですか,みたいなことを言われているはずです。時計とにらめっこできっかり1時間我慢して,それでナースステーションに再度訴えに来ています。それでまた「様子を見ましょう」では,私なら「いつまで我慢すればいいの?!」と怒りますが……。

2.○ 結局私の訴えは「痛みを何とかしてくれ」なのです。同じ飲みぐすりをもう一度飲むか,あるいは坐薬でも注射でも何でもいいのです。とにかく痛みを何とかしてくれえええ,なのです。深夜だから当直室に電話をかけたら医者が怒るかな,なんて,考えてはいけません。

3.△〜× 問題をよく読んでください。入院前からずっと痛みは持続しているのです。そのために入院したのですから,「一時的」といわれても,私なら納得しませんよ。たとえば処置で傷口を切開した直後とかだったら「一時的な痛みなのでもうすぐ治まる」といわれると,何とか納得もできようものですが……。

4.× つまり「我慢しろ」ということなんですね!!もうあんたには聞きません。医者を呼んでくれ〜!!

正解:2


Takashi Nakano MD,PhD.